ネットを通じて知らない人と出会う原体験
最近ふと思い出したこと。
私がネットを通じて初めて出会った人の話です。
高校2年生のとき、ニンテンドーWiiの「街へ行こうよどうぶつの森」というゲームを買いました。「どうぶつの森」とは、どうぶつがたくさん住む森で釣りやお花を植えたりしながら暮らすゆるーいゲームシリーズです。
その中でもこの「街へ行こうよどうぶつの森」は、Wiiスピークという音声マイクがついており、Wiiをインターネットに繋げば遠くの友達とでもおしゃべりしながら、最大4人同時に互いの森を行き来して遊べるという新機能がついていました。
しかし私の知り合いには、このゲームを持っている人がいなかったので、遊ぶ相手がいませんでした。
もしやと思い試しに検索してみると…やっぱり!
ネット上に、どうぶつの森の友達を見つけるための非公式な掲示板を見つけました。自分のIDとメッセージを書き込んでおくと、それをみた人が自分の森に遊びにくるのです。
小学生、おじさん、大学生、主婦、毎日いろんな人たちと遊びましたが、3ヶ月ほど経つ頃には、毎回同じ4人のメンバーで遊ぶようになりました。彼らとはメールやSkypeも交換し、どうぶつの森以外のゲームでもよく遊びました。
そのメンバーの中に、広島の高校生の安永くん(本名)という子がいました。
安永くんとは、ゲームをしていないときでも、Skypeを繋いで宿題をしながらだらだらたわいもない話をするくらい仲良くなりました。
彼は私の1つ年上で、女子から告白されたらとりあえず付き合い、でも結局冷たいとかつまらないとかいう理由で振られて毎月コロコロ彼女が変わるへんな奴でした。興味本位でお互いの写真を送りあったこともありますが、背の高い日焼けしたチャラそうな青年という印象でした。
安永くんと仲良くなって半年経つ頃、ある日「夏休み、暇だし3日間くらい大阪に遊びに行こうかな。案内してくれない?」と言われました。(当時私は大阪に住んでいました。)
私は迷いなく了承し、会う約束をしました。
夕飯を食べているとき、母親に「いつもSkypeで話してる例の男子が大阪に来るから案内する」と伝えました。
それから安永くんとどこを観光しようかという相談をしながら1ヶ月がたったある日、祖父から「知らない人と会うなんて、どうかしてる。そんな子だと思わなかった」とメールが来ました。母親が祖父に話したんだなとすぐに思いました。
半年もほぼ毎晩話していたら、17歳なりにも、相手が危ないかどうかなんて判断できるつもりでした。怒るに決まっている頑固な祖父に余計なことを話した母親にも、私のことを理解してない祖父にも腹が立ちました。
そのことを安永くんに伝えると「俺がお母さんと電話してお願いしようか?」と言ってくれました。周りの男友達よりも大人びている人だな、と思いました。
結局、電話はせず、約束の初日に母と安永くんが会う、という条件で遊ぶ許可をもらえました。
待ち合わせ当日。私の自宅の最寄駅に、広島土産を持った安永くんが現れ、母に挨拶をしました。母は5分くらい話した後「いい子そうね。もううるさくいわないから楽しんでおいで」と、お小遣いを渡して帰って行きました。
その日初めて生で見た安永くんは、写真のイメージよりもがっしりしており、穏やかな顔でクマさんみたいでした。正直まったくタイプではありませんでしたが、話しやすそうな人でよかったと安心しました。
京都、大阪、神戸を3日間かけて案内する中で、違う日常を生きる、知らない土地の青年と話すのはとても刺激的でした。別に彼を好きになったり、手を繋いだりすることもありませんでしたが、この3日間で彼のことをもっと知ることができてよかったと思っています。
そして最終日、安永くんは「ありがとう!楽しかった」と言って帰って行きました。
その後、安永くんとはSkypeで何度か話した記憶はありますが、いつの間にか受験勉強などで疎遠になり、連絡先もどこかへいってしまいました。以来、彼とはまったく交流がありません。
これが私の「ネットを通じて知らない人と出会う」原体験でした。
大人になった今でも、出会い系アプリの話になると「知らない人と会うなんて怖くないの」とよくきかれますが、不思議と怖いと思ったことは一度もありません。知らない人の方がむしろ、友達に話さないような悩みや考えを気楽にカミングアウトできますし、自分の知らない世界の話を聞くことができて、いつもの友達と遊ぶとのとはまた違ったワクワクがあります。
思えばこの感覚を高校生のあの時に体験していたから、私は出会い系アプリに限らず、知らない人と出会うことを躊躇なく楽しめるようになったのかもしれません。
安永くんは今いったいどこで何をしているんでしょう。
当時の私たちはやましい気持ちなく、純粋に相手のことをもっと知りたいという気持ちで出会った(と私は思っていますが)ので、また久しぶりに話をしたいな、と懐かしく思いました。